『近松心中物語』を見た

雪の残っている中を今年初劇場へ。雪と道行きって相性いいじゃん?

だいたい

近松心中物語』というタイトル、このポスター、もうだいたい予想通りの話だった。時は江戸時代、場所は大坂新町、宮沢りえ演じる遊女と、りえに惚れた堤真一が心中する!

f:id:tamamo0:20180127170750j:plain

遊女と若旦那の心中というと、たぶん主人公的には二人きりの世界がメインで、その外にいる親や何かのしがらみはモブになると思うんですよ。邪魔者のせいで愛し合っている美男美女が結ばれず涙涙の悲しい物語と。
でもこの舞台ではそうじゃないのがよかった。忠兵衛(堤真一)には、まあ遊郭の外の生活があるよね、息子思いのお母さんもいれば仕事仲間もいる。遊んだりしないから遊女や遊び人に対してちょっと腰が引けちゃうような、真面目に働く普通の人という面が前半は多く描かれている。そんな忠兵衛が梅川(宮沢りえ)を一目見た瞬間にスポットライトがピカー!スローモーション!効果音!ってなっちゃう。そこから平凡な俺が仕事も手につかず、友達に借金もする、店の金に手をつける、心中と主人公ルートのはじまり。

いよいよ心中へと転がり始めるまでは、幕が始まるたびにその町に生きる人々の活気に溢れた空気が広がるんですよ。群舞だったり、少女が腕相撲をしてたり。華やかで栄えて平和な明るい世界があって、そこで生きる人々のたくましい感じが眩しいくらいにある。
かつてその町で出会った梅川・忠兵衛が心中したのは静かな雪深い谷だったと。
ラストシーンでは手前に真っ白な谷、奥に赤く浮かび上がる遊郭、いつものように明るく生きて行く人々。だって今生きてる人にとって物語の主人公は心中した他人じゃなくて自分だし!みたいな?「これは群衆のうちのある男の物語でした。さて次は誰のお話をしましょうか……」と喪黒福造の語りを入れたい終わりだった。 

宮沢りえが最高

テレビで見たことある芸能人を舞台で見ると、テレビよりいい/テレビと変わらない/テレビはいいのにがっかり、のどれかに分けられると思う。宮沢りえはテレビじゃ三分の一も伝わってないね!!!

f:id:tamamo0:20180127171804j:plain

正面の澄ました顔はまあテレビで見る顔と同じなんだけど、どの表情もどの角度から見ても常に100%かわいいやばい。うなじの色っぽさはまあ想定の120%くらいの良さで考えたら実物に近くなると思います。
身のこなしがすごいの!着物の裾から覗く踵すら美しい。膝から崩れ落ちて忠兵衛にすがる感じの場面で、着物の布越しに伝わる足指の表情が色気しかない。

全身で見たときのバランスがとにかく美しい。もう立ち方からすごい。江戸時代に浮世絵がブームになったのも見返り美人図も理解した……。このしなを作った立ち姿を、実際に目の前で美人にやられたらブロマイド買うわ。美はすべての理屈をねじ伏せる力を持ってる。
それにくわえて声も良い。まさに鈴を転がすような声でしかもセリフも聞き取りやすい。

一回で三度美味しい

陳内さんは太鼓持ち・飛脚宿若手代・小役人の三役やっていてどれもとても良い。キャストを確認したときはこんな有名人がたくさんの舞台でどこに出る幕があるのかと……案外見せ場多くてどの役もいい。
全部がこういう役似合うよね!やらせたいよね!ってなってどれが良かったとか選べない。むしろ遠山の金さんが奉行と町人の顔を持つみたいに、3つの顔を持つ人物なのではー?
客を揉み手で誘い込むときと、説教始まってどうしようって空気のときで同じぺこぺこしてるのでも手の表情の違いとかいいよねー顔芸いいよねー。後ろで台帳開きながら他の若手とハンドサインで会話してるのいいよねー歩き方ひとつにしてもデキるインテリ感が出てかっこいいよねー。コメディから役人の恫喝で空気が一変する様はヒーローショーで悪の組織が登場したときのようで、この迫力いいよねー。最高。脇役でも大満足。

色々

正統派だけど正統派じゃないような良い舞台だった。豪華なセット、色鮮やかな衣装、芝居の上手いベテランの俳優と完璧。完璧なんだけど、こう、現代アートみたいな(?)新しい感じの軽い印象がすごく良い。休憩時間に他のお客さんが話してた「あれは歌舞伎の手法だよねえ」という言葉が気になる。歌舞伎の梅川忠兵衛を見たらいいのか。

 

パンフレットはすごく読み応えあってなんとお値段たったの1000円!(税込)

  • 秋元松代蜷川幸雄の間」 山本健一(演劇評論家) 2ページ
  • 近松が描いた"純愛"としての心中」 佐伯順子同志社大学大学院教授) 2ページ
  • 《元禄大坂の町人事情》新町遊女のシビアな格付け/実録・飛脚屋の公金横領事件/映画に見る近松とカネと男と女 2ページ

もちろんキャストインタビューや座談会の内容も濃い。絶対買うべき。

劇作家 秋元松代――荒地にひとり火を燃やす 冥途の飛脚 梅川忠兵衛 夕霧阿波鳴渡 今宮の心中・卯月の潤色

劇場覚書
新国立劇場 中劇場
初台駅直結ということになってるけど50メートルくらい地上歩かないと入れなくない?
無料のクロークがあり大きい荷物も安心。休憩時間ロビーで売っているおやつにシュークリームとハーゲンダッツ。次に行ったら食べたい。
19列の右端のほうでも見やすい音響も良い。椅子がいい感じで長時間でも疲れない。

『壁蝨』を見た

f:id:tamamo0:20170930170707j:plain

陳内さん舞台初日!劇場で席を確認してから、初めての最前だとわかって無駄に緊張しながらの開演待ちでした。

f:id:tamamo0:20170930233739j:plain


久しぶりに下手な舞台セットの図を。
青い四角が椅子です。舞台上に背もたれの形などが違う真っ白な椅子が並んでた。舞台の中央が一段高くなっていてその上にも背もたれのない四角の椅子が一脚。舞台の奥の方にはギターのセッティングがされていた。
もうさあ、満員の劇場で、初日で、最初の音、ギターの音を確認するように爪弾いてるとき、見てるほうが緊張のピークだった……。

 

あらすじ

主役のマコは母子家庭の子で母一人子一人。
第一幕。マコは中学校3年生で、クラスメイトの女子にいじめられている。母と喧嘩したりもする。今回の陳内さんの役どころはマコの幼馴染で初恋の相手ユウト。
第二幕。マコは社会人で、結婚して数年の夫とまあまあ幸せ。母は料理を作りすぎたと家に遊びに来る。会社の先輩を通じて偶然中学時代のいじめっ子やユウトと再会。
第三幕。マコは中学生の娘のいる母になっていた。


白から黒まで

白い椅子が整然と並んでいる舞台に、全員が白一色の衣装で静かに出てくる。着席すると主役のマコが舞台上の一段高くなっているところで「2000年の夏のわたしは〜」などと語りはじめる。
なんの事前情報もなく客席にいたら、はぁ、これは観念的な芸術作品的なアレなんですね、なるほどーという体勢で見る。すると、じきに思い違いだったな、けっこう俗っぽいなという感じになる。
いじめの場面は壮絶だし、母娘の喧嘩もすごい勢いで怒鳴りあうし、「あたしはダニ!あたしは欠陥品だから!あたしがいていい場所はないから!」とか直球で泣き喚いて、舞台中を走り回って、最初からクライマックス。最初からこのテンションに客席はすすり泣きで、この先どうなっちゃうの……。
いじめられてたマコがいじめっ子相手に啖呵きって、母娘が和解して場面転換。
白い上着を取るとみんなスーツとかいたって普通の色のある服だった。マコの衣装は黒系のパンツスーツで、中に白いシャツを着てる。ギャグパートというか「なにその空気!気まずい!ほら、お客さんも気まずくなってるじゃん!」みたいな。ユウトも先輩とビール飲みながら「……16」「えっなに今の間!」「そういう間じゃなくて、16?っていうほうの間ですって(?)」「いやいや今の間はそっちじゃなくてこっちでしょ!?」とかコメディやる。
見てる方はつかの間の休憩時間だった。嵐の前の静けさだった。
場面は変わって、マコが母の立場から、自分の娘に、かつての母と同じセリフを言う。マコの衣装は黒一色。喪服っぽいなあと思ったら、終盤でマコのお母さん死す。これネタバレかなー……。
死そのものはショックではあるけど、こういう出来事がありましたという話でしたね。そのあとの、もういないお母さんに向かって娘の立場から語りかけ続けるマコのセリフがすごくてすごくて。
お母さんがいなくてもまだ人生は続いていくし、子供だった”私”はいつかお母さんを追い越していくしかない。すごいんだよ。声を荒げるでもない、単調に語るんだけど、その中に含まれて抑えきれず溢れ出るものがすごいんだよ……。芝居の力だよ……。


芝居やばい

登場人物は誰もが身近にいる普通の人間っぽさはあって、それでいて生臭くはない。
親子喧嘩ってこういうこと言っちゃうよねー、性悪女が彼氏の前ではいい顔してるとか、ほんとよくいる人しか出てこないんだよ。ユウトみたいなちょっと変人のお調子者世渡り上手なイケメン後輩もいるいるーって感じ。そういうよくいる人たちが「いるーわかるーこいつはこういう奴だよねー!」って違和感なく舞台上に存在するってすごくない?どのシーンも、わかるーあるよねーって日常モノの連続。それが絡み合って心臓にずっしりくる物語になってるのがすごい。
序盤、マコが中学生の頃の話は心臓をナイフでザクザクやられるような衝撃の連続だった。中盤はバラの棘で刺されるような感じ。序盤中盤は外側からくるんだよ。終盤は一滴一滴気づかないうちに毒がまわる。最後の最後、暗転の瞬間に「おまえはもう死んでいる」って宣告されて息もできないみたいな。自分の内側の毒がぶわあって広がった闇の中に一人放り出された感覚。序盤ですすり泣いても、暗転のときはもう衝撃のあまり泣くこともできなかった。
こんなにすごい舞台を見られたのも陳内さんが出演するからで、ひいてはエンターさん、エンターさんを生み出した小林靖子に感謝。

 

色々

橋爪遼さんの生演奏生歌がとてもいい味出てて、ほんと演者の動きに合わせて生演奏の舞台っていいものですよね。
石田ひかりが美人女優なのにちゃんと普通のお母さんにも弱々しいおばあさんにも見えて、パンフレット見て初めてあれが?あの石田ひかり?えー…もっとじっくり顔見ればよかったーってなってる……。
岡本玲さんはじめ女子はモデル兼女優とかアイドルとか多かったんだけど、普通以上に上手いうえに若くてスタイルいい子がミニスカ女子高生役でキャッキャしてる舞台って最高じゃんって思う。足が細くて長くて思わず目で追っちゃう。
ユウト陳内さんは語りも何もかもよかった。ちょっとチャラくて要領良くて根は優しい人な感じリアルだった。

 

劇場覚書

シアタートラム。駅から近い。半蔵門線三軒茶屋駅で下りて、パティオ方面になんとなく歩いてたら着いた。「パティオ」って書いてある壁が噴水になってる広場のところ、雨でも屋根の下を通って行けそう。

座席は最前列の端のほう。見やすかったし音も良かった。

施設はなんていうか質素。ロッカー100円。

 

広告を非表示にする